父親の借金に殺されかけた元個人事業主「ラルフ・アックマン」

Mimesis of Frautal

VR1112年生まれ 男性

ラルフ・アックマンは、スレッド諸邦、ベイカント出身の男性である。父の経営するギルドマートの仕事を、両親の存命中は手伝っていた。

こう書くと、商人階級の一員として一定程度儲けを生み出し、悠々自適に暮らしていた家族の息子を思い浮かべる方が多いかも知れないが、生活環境はかなり苦しかったようだ。というのも、ベイカントの小規模な地主である彼の母の家に婿養子として入ってきて経営を始めた、彼の父親が極端に経理に疎く、どんぶり勘定で商売を続けたため、瞬く間に借金まみれになってしまったようだからである。

周囲に住む人間は、ラルフ・アックマンの父を評し、「売れない商店主のハゲオヤジ」とか、「店が儲からないから、妻の家の土地を売り崩している」などと噂した(そしてその噂は、実際にその通りだった)。

初め、ラルフは、こうした声を田舎者につきものの詮索癖と馬鹿にしていたが、そうした評判を遥かに凌駕する勢いで父が店の資産を切り崩していようとは、彼が父の代わりに一号店(父は新たにより儲けが出るという近隣の二号店の経営に移った)を任されるまで、全く思いもしなかった。

ラルフが真に驚いたのは、一号店の月の収支報告書を見たときだという。そこには、毎月二十万ラピスほどの赤字が継続して計上されていた。ギルドマートは、契約時の取り決めで月十万ラピスほどの生活費の引き出しを認めていたから、合わせて三十万ラピスずつ、外部から資金を毎月店に入れていないと、どんどんと正味資産が目減りしていってしまう有様だった。

では、ラルフの父親が如何にしてその事態を回避していたかと言うと、巷の噂から一ミリのズレもなく、母方の家の財産から拝借し、新たに店に振り込み続けていたのだった。要は、経営など成り立っていなかったのだ。そればかりか、その全く利益を出さない店を息子であるラルフに残し、彼の父親は、(彼曰く)「より繁盛する」、という、新たな店の経営に出向して行った。

この移転が、ラルフ・アックマン三十一歳の時のことだ。当然ながら彼は父のずさんな経営に激怒し、即座に違約金を支払っての一号店からの離脱を要望する。

「こんなの、どう考えたっておかしいだろ!」

「いや、お前が辞めたいんだったらさ、金はなんとかするから、辞めていいよ」。

父はと言えば、もはや一号店の経営には興味がなくなってしまったようで、自らの残した店の惨状を棚に上げ、金の面倒を仕方なく引き受けるように答えるばかりであった。

結局、合計200万ラピスほどの解約金を支払い(この資金はカリム銀行から借り入れた)、ラルフは店の経営を始めてからわずか一年半ばかりでギルドマートとの一号店の契約を解除している。特に、競合店が近隣の目と鼻の先にできてからは売上の低下もひどく、母の家の土地を売って手に入れた金も底をつきようとしていたらしい。

VR1145年、こうしてラルフ・アックマンは、晴れて無職となる。父が「売上がいい」と嘯く二号店の経営のみを残し、彼の家族はなんとかすってんてんにまでならずには済んだ。後は地道に生きていけばいいし、母は父を愛していて、両親に何ら恨みのない自分自身も含め、平穏に三人が暮らしていければいい、とその時彼は思っていたのだろう。

……だが、そんな安息も長くは続かない。一号店を閉めてから三年後のことだ。父から、再度の無心が来る。

「もし最終決算報告の時に金が足りなかったら、家と土地を担保に入れて金借りるしか無いと思ってるんだけど……」

正味資産割れと一ヶ月遅れの人件費と諸経費を賄って300万、ラルフとラルフの母は父のために用意しなければならなかった。それでも何とか、店を辞めてからアルバイトで貯めた金と母のへそくりで間に合わせた。

……………………
間に合わせた、と言っても、もはや何かの時のためのちょっとした貯金もなければ、急に病気になった時に対する備えなどもない。つまり、ここに至って漸く、ラルフを含めた三人の家族は、本当の意味での無一文になってしまったのだ。

この話を思い返す度、父が不服げにタバコを吹かしている姿が目に浮かぶ、とラルフは彼の友人に語る。自分自身の作った借金について家族で相談しているのに、常に謝罪すべき父自身は話し合うことそのものに対して不服そうだった。

しかし、ラルフの母の夫に対する意見はまた違った、とも言う。母は、「あの人ってね、とにかく女のことが好きで好きで仕方ないから、店の売上のことなんて本当はどうでも良くて、中のいいパートのおばさんたちにでも囲まれて居られたらそれで良かったんじゃないかしら」。ラルフと二人で父のことについて話す度、そんなようなニュアンスのことを母は繰り返し主張していたらしい。

思うに借金とは、特定の性格の人間に取り憑いた悪癖のようなものなのだ。父が終生辞められなかったタバコの煙のように、それは何度振り払おうとしても体にまとい付き続ける。父は、自分に不利な情報とか、まっとうな反論を目の前にすると、すぐにその場所に逃げ込んだ。思考は、一度溜め込まれて再び吐き出された煙とともに、全て空へと消え去っていく。

ところで、ラルフの両親は、ちょうどギルドマートの二号店との契約を終えて二年後の夏、一ヶ月違いでふたりとも亡くなってしまった。母は、どんなに父の借金を恨んでも父本人を憎もうとはしなかったから、そうして家族の生活が破綻しないうちに二人寄り添って生を終えられて良かったのだろう、とラルフ本人は語っている。

そして彼は、父の借金のために自身で貯めた300万ラピスを失ってしまった代わりに、母方の家系の残した遺産として、家と土地を引き継いだ。一人ぼっちになってはしまったものの、何とか両親との思い出を大事にしてこれからも生きていこう、彼がそう考えていた矢先、また別の出来事が起こる。

「すみません、ラルフ・アックマンさんのお宅ですか? 実は、お父様のお店の経営の件でご相談がございまして……」

二号店を店じまいする際の、商品売却額500万に対する50万ラピス分の行為税。これが、完全に未払いだった。二年分の延滞課税料金まで合わせると、55万ラピスほどを、新たに収め直さなければならない。余分な金を貯金しない性分のラルフの手元にはそんな金はなく、つまり、この分の借金を新たに作るか、家か土地か、何か新たなものを売却し直さなければならなくなった。

この時の心情をラルフは彼の友人に吐露して、彼は故郷であるスレッドのベイカントから去っている。かつて経営していたギルドマートの一号店の近く広場で彼は、

「そんな額、払えないからさ……。俺、税務局に行って商品を譲渡する際にかかる行為税について何度も何度も公式の文書を読んだんだ。でも駄目だった。何度読んでも、その中にはお前のお父さんが作った借金が後に申告する税金となって新たにのしかかってきたんだよ、としか書いてなかった。」

と言った。フロウタールに施行された適正な法解釈の元の納税義務を記した文言に、逐一殺されていくような気がした、と繰り返し語っていたのが印象的だった、というのは彼の友人の意見である。

身内の者が、自分の知らない所で、膨大な借金を作ってしまった、あの瞬間の気持ち。それまで維持されていた生活が、音を立てて崩れ去っていくそのプロセス。そう云った、全てのことに嫌気が差して、ラルフはどこかに旅立っていったんだろう。

「家も、土地も処分してしまったみたいだし、今はイスかハングヘッドアイランドにでも向かってるんじゃないのか?」

故郷の村を出てから行方不明。これがVR1150年現在の彼の現況である。

一日の行動の優先順位

1 母を想う

2 父について考える

3 エロいことを考える

4 音楽に憧れる

5 「流石俺。」と呟く

6 ベイカント・フェイカーズのベストメンバーを模索する

SPECIAL
4446969
闘争華美飽食享楽不寛勤勉渇望
1212
空間時間
24
保持スキル自慰空想

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