アブストラクトメイルを考案した発明家「アグニス・ヴァンデヴァイル」

Mimesis of Frautal

VR1089年生まれ 女性

アグニス・ヴァンデヴァイルは、エロイーズのダムステア出身の女性である。父であるフェルミ・ヴァンデヴァイルの研究を引き継ぎ、スレッド諸邦の標準装備となるアブストラクトメイルを開発した。

ダムステア出身の女性であったアグニスが、何故、国境を渡りスレッドの側で軍事上の防具を開発したのかと言うと、何より、夫であるヴォルカー・シュミットをVR1108年の「鉄膣の戦いβ」において亡くしたことの影響が大きい。

彼女の父であるフェルミ・ヴァンデヴァイルは、兼ねてからスレッドのラピス出身であるヴォルカーとの娘の結婚には反対していたらしいが、若くして連れ添いを失った実の娘が日々悲しみに暮れる段になると、フロウタール人民が本来持っているべき、六つの原罪の表現を当是とした各国の力の均衡、への思いを強くし、アグニスがスレッドの側に渡って自身の構想していた軍事用品の研究を続けることに同意したのだという。

そこで鉄膣の戦いβ、自体の経過に話を戻すと、そもそも、闘争の原罪の表現を神への信仰として定められているスレッドの国軍が、エロイーズの軍隊に負けたのには理由がある。

その要因とは、端的に言って、火器に対する意識の相違である。有史以後のフロウタール五覇の一人とされるカムラル出身のカリム・リナウドの時代から、エロイーズは弩兵を中心とした遠距離での戦闘に重点を置き、その過程で、ディレリアのヴィト・コンカスという男が開発したとされるクレイオ銃、も軍備の中に積極的に取り入れていた。が、対峙するスレッド諸邦の軍はといえば、邦の創設者であるとされる(神話上の王の)ジャニス・ローレンス卿の時代から変わらぬ、歩兵、騎兵、弩兵を配した中世というより古代に近い伝統的な軍編成にこだわり続けている有様だった。

これでは幾ら訓練を重ねても勝てるはずはなく、カリム・リナウドが鉄騎兵でスレッドの軍を蹂躙した第一回目の鉄膣の戦い(VR890年)の段階から、確固たるエロイーズ側の軍備を誇示するように、上記のVR1108年に起きた鉄膣の戦いβ、に至るまで、スレッドの側は敗北を延々と繰り返していた。

そうして見ると、ダムステアとラピスの圏境でのアグニス・ヴァンデヴァイルとヴォルカー・シュミットとの出会いとは、両国の歴史にとって稀有な、戦術上の優位性と国防の意識そのものの変更を余儀なくされる、軍事バランスの転換点だったとも考えられるだろう。

なぜなら、冒頭の記事の著述自体に戻ると、VR1108年の鉄膣の戦いβでのヴォルカーの死によって、結果として、スレッドの側にはアブストラクトメイル、という銃火器の一部を陳腐化させる発明が齎されることになるからである。ここからは、(あまりにも前置きが長すぎたので)、具体的な発明品そのものの性能と開発の過程について直接触れていきたい。

まず初めに、アグニスの父であるフェルミ・ヴァンデヴァイルは、この発明の素案を、首都サールズにあるエロイーズ政府の下に持っていっている。だが、万が一、本当にその「帷子」の性能が実現されてしまうと、銃器を軍の主戦力としていたエロイーズの国軍は、壊滅的な影響を被ることが予想されたので、彼の「発明」は初めから無かったことにされ、そのような実現不可能な妄念を抱くことを止めるよう諭され、ザイスの特許庁から軽くあしらわれてしまったのだという。

国に対しては強い忠誠心を持っていると自負していたフェルミのことだから、事態はこれ以上先に進まず、メイルそのものの実現可能性も失われてようとしていた矢先、その発明の可能性を引き継いだのは前述したとおり、彼の娘であるアグニス・ヴァンデヴァイルを襲った運命である。

彼女は、ラピスにある借家に届けられた夫の戦死を告げるホロタグをスレッドの兵士から受け取ると、一度ダムステアの実家に帰り、そのままの足で更にもう一度国境を渡り直し、スレッド諸邦の「統合議会」のあるツナ・リンガに向かう。

そこで彼の国の幕僚参謀長の下士官であるハイリ・クラインに彼女が謁見したときに発したとされる言葉が、ハイリのメモから引き写されて公式の議事録に残っている。

「わたしは、元は隣国のダムステアの娘でしたが、リモンの丘での戦いで夫を亡くし、今やエロイーズの誇る火器の危険性について、御邦のどの将校方よりも身を以て憤り、懸念している次第です。もしも、こちらの国の民草の代表が、闘争の原罪の表現を試みようとする他の国の出身者を自国の民と同様に取り扱うなら、どうか、この私に、銃による投射攻撃を無効化するための防具の試作品を制作する機会を与えて下さらないでしょうか?」

夫の保持していた鉱石の秘められたホロタグを片手に掲げ、アグニス・ヴァンデヴァイルはスレッドの士官に対してそう訴えた。スレッドの側でも、当然ながらリモンの丘での直近の敗北は屈辱の塊だったので、訴えはそのままハイリ・クラインの所属先へ上申される。

銃器を無力化する帷子、など、流石に実現不可能とスレッドの統合議会の側でも初めは拒否されかけたらしい。が、それでも試み自体が失敗したとして、返って失うものも何もない。何より、夫を失ったというアグニスの執念が、エロイーズに生まれながらスレッドの闘争の原罪を誰よりも表現している、と特に「王」であるシモン・ゲルハルトから好感され、諸邦全体による研究への投資につながった、と公式の議事録はさらに補完している。

かくして、アブストラクトメイル、製造への正式な研究が始まった。アグニスの考案した「帷子」の作成にとって最も重要なのは、接着剤で複数の繊維を合成する前の、圧倒的な強度と柔軟性、それに吸湿性や可燃性への対策など、用途にふさわしい特別な素材を量産可能なように世界各地から持ち帰ることであった。

結果的にこれらの要望は、ディレリアのモス近郊に生える「透明竹」、パルスプラントのライムインの谷のみに生育する菌類の一種である「フロレセンスファング」、さらにはエロイーズのペルピーニャの森に棲む「ウルトラマリン・グリセリア」の蚕の糸としてそれぞれ参照され(全ての発見はVR1110年に行われたツナ・リンガ繊維調査団による)、三種のそれぞれは、ツナ・リンガ、ベルゼン、ライ・ブレートに分散され、以後、スレッドの国土のみで素材を使用した鎧を量産できるよう、プラントを確保した上での移植が試みられた。

VR1114年、上記のことをすべて踏まえ、3年に渡る研究期間を経て、ついにアブストラクトメイルは完成する。完成した、と言っても、その後何度も改良と刷新が繰り返される中での話で、初めはその強度も運用の幅も限られたものだったようである。ただ、この試作品の初版の登場は同時期にハングヘッドアイランドから持ち帰られた「サッカー」というスポーツ競技のスレッド全土への浸透と重なり、歩兵、騎兵、弩兵、という伝統的な兵科のカテゴリ分けを維持したまま、銃火器への対抗手段をも兼ね備えた軍事訓練と兵の運用の改良を、以後三十年もの間スレッド国内に波及させ続けることになる。

この、アブストラクトメイルとサッカーの関連は記載すべき内容が多岐に渡るので別項に譲りたいのだが、最後に、アグニス・ヴァンデヴァイルの企図した鎧そのものの発展について軽く触れておきたい。

クレイオ銃、という投射武器を遮断する目的で作られたこの「帷子」は、VR1118年、素材同士の合成の割合を調整する中で、完全に弾丸から身を護る強度を実現することに成功する。さらに付言すべきなのは、この鎧が特に女性兵士に支給されたときの運用方法であり、「軽さ」「柔軟性」「強度」を併せ持つ普段着のような特性も相まって、用途に応じた幾つものヴァリエーションを生み出した。中には民族衣装風のものやスカートに近い型までその形状は様々だが、これらの外装に袖を通す時、女性たちは、必ず共通した一つのイメージを思い浮かべる。

その像こそが、他ならぬアグニス・ヴァンデヴァイルの研究姿である。軍間、民間を問わず、スレッドの女性たちにとってエロイーズから夫の無念を晴らすためにやって来た彼女のイメージは、まさに闘争の原罪そのものの生ける象徴、となったわけだ。

一日の行動の優先順位

1 アブストラクトメイルの試作品を考案する

2 女性に配慮したデザインを心掛ける

3 サッカーの試合を見に行く

4 蝶の幼虫に優良な餌を与える

5 新たに活用可能な素材の調査を依頼する

6 夫の墓前に手を合わせる

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