皇后の偏愛を受けた清掃婦「シエラ・バシエリ」

Mimesis of Frautal

VR1124年生まれ 女性 色相の転換者(未性交)

シエラ・バシエリは、イス帝国の先代皇后、エニサ・オル・ソイエの侍女である。VR1142年の皇帝暗殺事件に伴い(皇后も同時に死亡)、自身も一命を取り留め、宮廷を逃れたその後の行方は分かっていない。

上に述べた経緯から、以下の記述は、必然的にシエラがまだ宮廷に仕えていた頃の記録(先代皇后エニサの日記の一部が、プリスデンにある王室資料室に保管されている)と、当時の同僚が、その後イスのラディカルクリット社の発行誌である「月刊・不寛容」に投稿した伝聞に頼っている。よって、多少の不正確さと曖昧さが残りうる点を予め指摘しておきたい。

幾つかの資料を総合すると、現在行方不明のシエラ・バシエリは、初め、フィアに身を匿われたエロイーズのスルナ出身の女性であったらしい。元来、イスの住人を多層的な掟と不寛容の原罪の表現に縛り付けることを目的としたディストリレート・プラトーの各地域は、祭祀を司るフィアのみ、幾人か他国から移民を受け入れることを許可していたから(勿論、ミラジ教徒の侵攻依頼これらの規定も形骸化してはいるが)、エロイーズから彼女が移送されてきたことも、伝統的な取り決めの一部だった。

ただ、ここに幾つもの偶然が重なる。帝都サンギュリエにある宮廷内倉庫に保管された竜涎香の巨大な塊の芳香が廷内に残らぬよう、風通しを良くし、建物を支える各柱を常に除菌することを言明された「清掃婦」となるためにフィアの祭祀人たちは育成されるわけで、まずはバシエリもその慣例に倣い、フィアでの修養期間を終え、帝都へと配属される(ここまでは当然の成り行きである)。

そうしてサンギュリエ中の庭園の清掃を命じられた彼女が、宮廷中央の漆黒の間へと続く夜の暗がりの中を歩いている時、その「発見」は起こる。たまたま近くを通りかかった皇后が「偶然」彼女の輝きに気付いたのは、本人に全く自覚はなかったにせよ、シエラ・バシエリが色相の転換者だった故であった。

全ての空間の中で最も暗い、と称される漆黒の間の手前の庭園で、無垢なエロイーズ出身の転換者の女がぼうっ、と色彩を発して浮かび上がる姿、を皇后は見る。エニサ・オル・ソイエが生涯を通じて同性愛を疑われる傾向があったことも、その場に密かに居合わせた偶然であったろう。后は即座に夫であるトーステン・ウィル・ソイエに口添えし、シエラを侍女として自分の身辺に引き上げることに成功する。

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注:このような経緯から、エニサとシエラが初めから愛人関係にあったのではないかと推測する者も多い。が、その関係性自体の定義が具体的な当人間の性的行為にあるのだとすれば、最後まで「それ」は行われなかったようである。というのも、この点は前述した「月刊・不寛容」の中の小間使いの話に詳しいのだが、シエラ・バシエリの肌の色は、彼女が皇后に仕えた最後の時期まで、一貫して性交の跡を示さず、端的なエロイーズの娘としての黄金の煌めきを放つのみだった、らしいからである。

「月刊・不寛容」の記事の中では同様に、一方であまりに親しすぎる后とシエラの関係性が、エニサの寝室から毎夜遅くなるまで戻らないシエラの姿として報告されてもいる。いずれにしろ確かなのは、仮にどんなに互いを思いやり、虹彩の縁取りの中に相手の見た景色への配慮を湛えていたとしても、肉体的な奥の深くまでには、その愛情は突き立てられていない、ということだった。寝室を出、漆黒の間を通り過ぎ去っていくシエラの姿を見送る自身の視線と同様に、后であるエニサは誰にも汚されない色相の転換者の肌の輝きを愛していたのだろう、と思われる。

ここで、あまりに急激な話の飛躍をお許し願いたいのだが、実際、上に見たような后と侍女の間柄の切断は、記事内容と同等かそれ以上に唐突であった、と言える。VR1142年6月、プリメーラ・ディビジョンで優勝した剣闘士をステル・リ・タニウ遺跡で称える際、皇帝トーステン・ウィル・ソイエは、周知のようにエニサや他の随行人ともども暗殺されてしまったからである。

この悲劇の遂行者は、一般にはミラジ教の過激派と言われているが、あくまで帝国内の監査委員会の公式の報告に過ぎず、真偽は定かではない。また、普段なら常にエニサに付き従っていたシエラが、何故このときに限って随伴しておらず、事件の当事者になることを避けられたのかも、全く以って分からない。しかしながら、これらの事態の収集される過程で、新たに帝位に就いた現皇帝カーリット・レイン・ソイエの下で、エニサの侍女であるシエラの居場所が全く存在しないことは明白だった。

こうして、フィアの祭祀人として育てられ、サンギュリエの清掃婦となり、さらに皇后の侍女にまでなったシエラ・バシエリは、皇室の記録に残るような表舞台からは姿を消してしまう。だが近年、色相の転換者である彼女は、前述の「月刊・不寛容」に投稿された同僚の侍女だった女の語るものとは全く別の姿で、イスの民衆の巷間を思いがけず賑わせることにもなるのだった。

VR1149年7月11日、かつての暗殺事件の被害者の一人として宮廷から姿を消したその女は、今度は企画されたテロ事件の首謀者として社会の裏側から這い出して来る。そのテロは、(「月刊・不寛容」の当時の記事によると)あの悪名高いフランキスカ・プリシェラの裁判の行われようとする間近で実行された。

バシエリは、そこで侍女であるときに身に着けたに違いない見事な小剣の腕を披露し、他の仲間ともども、「無実」のまま裁かれて撲殺されようとしていた民衆の一人を警備の男どもを打ち倒して救い出したのだという。そして、さらにその数日後、「リ・コンセプタ」と呼ばれる反逆者集団の一人として、一連の件に対する犯行声明を、連名で前出のラディカルクリット社に送りつけるに至る。

実際にその場に居合わせた裁判の見届人の数人から数十人の観衆への取材によると、バシエリは久方ぶりに表舞台に現れたその姿形を、エニサ・オル・ソイエに付き従っていた時と同様のまるで性交の傷跡のない無垢な黄金の輝きで蔽っていたという。

しかし一方で、イスの、ディストリレートプラトー解放戦線を自認する「リ・コンセプタ」に今や所属しているシエラ・バシエリは、何故かチャラ・バシエリという変名を犯行声明の際に使い、倫理監査委員会の横暴に抵抗しようともしているようなのだ。

主を失った彼女が、その後どこに潜伏し、何を企んでいるかは、実際の所、誰も知る由がない。ただ、それでもプラトーの一部の人間が信じて疑わないのは、彼女が単色の黄金の肌を示している限り、かつて皇后だったエニサへの忠節は失われてはいない、という点のみである。それを確認するためには、色相の転換者である彼女の体の色を自分で目の当たりにしなくてはならないことも手伝って、彼女は一つの都市伝説のようになってもいる。下に示すのは、そんな一部の彼女のファンの妄信的な呟きである。

「シエラ・バシエリは既に亡くなった皇妃エニサのみを愛しているのよ。チャラっていうのは世を忍ぶ仮の姿なの!」

一日の行動の優先順位

1 ギターを弾く

2 小剣の腕を磨く

3 詩を書く

4 周囲を見張る

5 バンドメンバーと話し合う

6 宮廷時代を想う

SPECIAL
6966777
闘争華美飽食享楽不寛勤勉渇望
21111
空間時間
24
保持スキル小剣清掃弦楽

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