ヌーメナル実験場の元現場主任「ミリアム・ブライス」

Mimesis of Frautal

VR1096年生まれ 女性

ミリアム・ブライスは、パルス・プラントのスルーゲイズ以南、ヌーメナル実験場に約五年間勤務していた女性である。彼女は、そこで行われている人身検査を「非人道的」と断じ、糾弾する内容のレポートを地元の新聞社に提供し、内情を暴露した後に失踪している。

パルス・プラント、という地域そのものの名称の由来となった事件は、ごく最近になるまで、神話上、もしくは有史以前の出来事として、そこに住む民衆からはすっかり忘れ去られていた。

だから、その「原因不明の奇音」の存在が、改めて思い起こされるようになったのは、実際にその音が、パルスプラントの人々自身の体内からパチパチと聞こえ始めてからのことだった。

事の発端は、おそらくVR1097年、スレッドの将軍のフローリアン・ホフマンが、国境を超えてリウネからン・テラの遊牧民の地域にまで進出し、彼らの勢力の幾つかを平定して、制圧先の土や作物を持ち帰り、現在のシジルイッツァの南、まさに今ではヌーメナル実験場として知られる地域に移植した時点に遡る。

トウモロコシを始めとしたこれらの作物は、栽培が初められてから初めの数年間は地元の住人に非常に好まれ、パルスプラント西部のマラツブやフエにまで広がり、スレッドやエロイーズにまで輸出されるほどの人気作物として、自由に貿易されることとなった。

しかし、有史以前の言い伝えに過ぎないとほとんど忘れ去られていた彼の国の名称そのものを示す事件は、ぱちぱちと、住人が飲食をし、呼吸をする体の中から、目には見えないにせよ明確に耳には捉えられる形で、静かに破裂させられ、急速に伝播していく。

VR1102年、ヌーメナル実験場の周辺で作物を育てていた住人のほとんど全てからこれらの報告が上げられるようになった時点で、「パルス・プラント」は自ら、チェシンに隣接したスレッドとの国境沿いを閉鎖するに至る。各国の対応はさらに迅速で、エロイーズはアルラーフを経てスプレイ、アムス沿いに運び込まれてくるミゴウやマラツブの食物を全て禁輸にし、スレッドなどはそれらの対応に加えて、スルーゲイズとチェシンとの間の平原に、こっそりと人と作物が運び込まれてこぬよう塹壕を設ける厳重ぶりを見せた。

かくして、遠く神話の時代と同様の、信仰を一にする地続きの空間でありながら、人と物の移動の極端に制限された、巨大な陸の孤島がフロウタール南方に出来上がる。勿論、こうした状況を何も食料輸出業者や地域の支配者であるペネロペ・メイトバイヤーがただ手をこまねいて見ていたわけではなく、音の発信源となったかねてフローリアン・ホフマンが植物を落としていったスルーゲイズ地方をさらに領国の中でも分離し、今やヌーメナル実験場、として知られる土地を中心に、住民そのものを被験者として奇音の原因の調査を開始することになる。

これらの施策は、結局の所、実際の奇音の原因を突き止めるため、というより、あくまで奇音そのものが一部の住人のみに発症した流行病の一種と断定するための、アリバイ作りの意味合いの方が強かったようだ。ミゴウに本拠を置くペネロペは自国の穀物の安全性を各国に対し保証するため、スルーゲイズ南のライムインという地域に奇音の発生源となった人民を隔離し、そこでの調査を完了させることで、他の地域の小麦や陰樹作物の類には全く悪影響はなく、今までと同様に各国で消費してもらえる態勢を整えようとしたのだった。

VR1105年、上記のような過程を経て、結果的にパルスプラントのほとんどの地域で、諸外国からの食料の禁輸措置は解除されている。ただ、その代償として、当然ながらスルーゲイズ周辺のプラント内からの隔離、は続き、VR1150年現在になっても、特にスレッドとの国境沿いの閉鎖は続けられたままである。

この、メイトバイヤー以下の各地域の支配者が取った行動は、パルスプランド全土にとって見れば、ある種の「焦土作戦」に近い、と言える。要は、奇音の発生の原因を特定の地域、特定の土地の上の穀物に限定することで、もしパルスプラントの他の地域にまで影響が派生する可能性があった場合に他国の享受する可能性のある旨味を、国の南東地域そのものを犠牲にすることで、焼却しようとしたのだ。

よって、パルスプラントの支配者にとっては、奇音が空気感染するようなものではないことを確定する方が重要だったわけだが、問題は既に別の位相に移っているだろう。穀物を通して発症する「パチパチ」という破裂音の原因が特定の土地、特定の大地の上に存在するとしたら、では何故、それがスルーゲイズの南、フローリアン・ホフマンが他国から植物を輸入してきた場所から発生したのか。そして、未だライムインとヌーメナル実験場に隔離されたままの人民の体内に、奇音が発生することでどのような影響がありうるのか。

以下の著述は、この項の冒頭で述べたミリアム・ブライスによる新聞記事投稿からの抜粋である。実際の記事の内容は多岐に渡るが、ここではその結論部分、パルスプラントの奇音とは一体何だったのか、という点についてのみ、彼女が知り得た内情の報告から幾つかの可能性をまとめ直しておきたい。

1つ目の確定的な影響は、穀物を消費したことによって体内に生じる奇音が、同様の環境で穀物を食した者同士の間にのみ、伝播して聞こえる、ということである。この点はまず始めに誤解されがちなところで、奇音そのものは(全くありがたい話ではないのだが)疾病の当事者間、においてしか聞こえないのだ。

次に、2つ目に起こりうる確率的な影響は、「奇音の遺伝」である。VR1103年から47年間に渡りヌーメナル実験上において人体の調査が続く中で、当然、一世代から二世代の出産と養育による家族構成の更新がライムインの地域内でも起きる。そしてその度に、奇音は新しい世代に対して伝染する。ただ問題をさらにややこしくしているのは、この新しい世代への奇音の伝播が、必ずしも一定して起こるのではなく、場合によっては一切奇音を関知しない赤ちゃんまで生まれてくる有様で、確定的には語りえない点である。

第三に、これは上述の記事の中でもかなり不確定に述べられている部分ではあるのだが、「奇音の発信者同士の交信の可能性」の問題がある。具体的には、ぱちぱち、とか、バチバチ、ぴこーん、ぴこーん、という音の周期性の一致する者同士の間で、互いの場所がどのくらい離れているか、どちらの方向に共鳴者がいるか、手に取るように分かるというのである。また、さらに稀に、全く同一の波長を発している者同士の間に於いては、それらの、互いに離れた場所で見た物や聞こえた音などを共有する例なども見られるようなのだが、ミリアムはこれらの一部の可能性をまだ「検証段階」として実際の確定された影響の内には加えていない。

以上のことは全て、(繰り返しになるが)元ヌーメナル実験場の現場主任だったミリアム・ブライスという女史による新聞記事への投稿に記載された内容である。その記事の中では他にも、上記の奇音による影響を確証するための住民への軟禁、意図的な当該穀物の摂取の強要など、人道的な観点から非難されるべきパルス・プラントの支配者たちによる実験の数々の詳細が記されており、地域内や諸外国では、それらの外形の方が真っ先に繰り返し糾弾された。

ただ一方で、一女性によるタレコミを国側がそのまま許容するはずもなく、実験場の総合管理を任されているミゴウの官僚のフランコイス・パプリカという男性は、ミリアムの新聞投稿に記載されているような事実は一切存在せず、彼女の報告の内容を「完全に虚偽」だと断定している。

事の真偽は、最早スルーゲイズの実際の住人たち、の口から語られる他ない。が、端的に言って、現状ではミリアムの報告を信じない者などいないし、逆に国側の弁明を信じる者もいない。その信用と不信の原因は同時に、「レディエーション・レディオ」というヌーメナル実験場からの一部の脱走者たちによる新たな試みによっているのだが、それらの関係者たちの行動の記載はミリアムの報告からは若干それ過ぎてしまう嫌いもあるので、ここでは割愛する。

一日の行動の優先順位

1 追跡者を警戒する

2 レディエーション・レディオの幹部と話す

3 輸出されたトウモロコシの品質を確認する

4 隔離された世代への贖罪感情を持つ

5 夕暮れの美しさに感嘆する

6 スルーゲイズの開放を模索する

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