才能を食いつぶす白鴉「エリス・チルズレイ」

Mimesis of Frautal

VR1109年生まれ 女性

エリス・チルズレイは、フロウタール中央、イス東部にあるチルズレイ銀行の頭取である。両替商として各国に支店を持つ、パルベサイツ家の銀行の総本店の責任者としての役割をそのまま担っている。

とは言っても、エリスが現在の役職に収まったのは、VR1148年、つまりごく最近のことである。イス帝国のフィア銀貨、エロイーズ王国のカムラル金貨、ディレリアのメダラ銅貨、スレッドのラピス鉄貨、パルス・プラントのシジル貝、これらの兌換性と、国内的な手形発行、運搬の仕組みを併せ持つパルベサイツ家の当主から、特に、イス帝国全土に進出してきたミラジ教徒との間に関係を取り持つことを期待されて、彼女はハングヘッドアイランドに支店を据えるカリム銀行の頭取の立場からヘッドハンティングされて現在に至る。

フロウタール圏内でのエリスに関する評判のほとんどは、むしろこの、カリム銀行時代の仕事ぶりによって占められている、と言える。彼女はそこで、ザン教の信仰の根幹に関わる「音楽」に関する貸し付けを行った。

当時、カリム銀行の首吊り島支店では、この銀行の名称に冠された(五覇の一人であるエロイーズの)カリム・リナウドの末裔の指示で、スレッドの指紋鉱石による報奨の仕組みを応用し、特定の指紋鉱石保持者に対する首吊り島内での飲食提供を行っていた。それらの提供額は逐一提供者側によって記載され、スレッドの該当する口座から、日時の記録とともにその都度引き落とされていたのだった。

つまり、石を利用した簡素な為替取引のようなものが本人確認とともに行われていたのだが、この点をさらに発展させたのが、本記事で語られるエリス・チルズレイである。

エリスは、この首吊り島での飲食提供を、資金援助を受けた旅行者の為にではなく、ただ当て所もなく島に流れ着いた「浮浪者」たちに無償で行った。代わりに、それら無頼漢たちはエリスとその部下たちによってある提案を為される。

この、「新ヴィジョンへの投資」と呼ばれるエリスの仕事は、若者たちに最低限の衣食住の保証を与える代わり、兼ねてから抱いていた「夢」を追うように仕向けさせる、というものである。…国を追われ、死者のみが行き来するという島にたどり着いた浮浪者たちのことだったから、大概、何らかの夢、果たされざる志のようなものを抱えているのが常であろうと、投資に先立ってエリスは予測したわけだ。

当然のことながら、そうして支援を与えられた大多数に、時間さえ与えられれば発揮される才能などあろうはずもない。カリム銀行は特に、前述したとおりザン教の信仰の拠り所である音楽家を育てようとしたのだったが、与えられた時と飲食に報いられるような才能を顕した新人ミュージシャンは、事前の期待に反してごく僅かだった。

結果、約束された日時までに「借金」を返済できなくなる若者が続出する。彼ら、彼女らが、初めから才能を持たない人間だったのか、怠惰によって年月を食いつぶしてしまったのかは全く以て定かではないだろう。同様に、そこに現れ出た何も生み出さない人間の塊という事態を、予め考慮した上で意図的にエリスが投資を行ったかについても、誰からも判断されうる論拠を持たない。

こうした経緯の後、エリス・チルズレイは、それら才能によって借金を返済できなくなった「不良債権」を利用し、首吊り島のアガリッシュ山近郊に、巨大なロックフェステイバル会場を作り出そうと試みている。人間の屑、を自認せざるを得なくなった若きアーティスト志望たちは、期限を設けて支援を受けた後の事ゆえ、ただ粛々と、地面をならしたり石を積み上げる単純労働に就くことを余儀なくされる。

上記のすべての事情に総合されて、VR1147年、一度目のアガリッシュ山ロックフェスティバルが開催された。ここには、ザン教によって異端とされて各地に散っていた伝説的なミュージシャンたちも幾人か参加していたので、フロウタール圏域のマニアックな音楽ファンなどが殺到し、三日間に渡るフェスの期間中、首吊り島のごつごつした山並みに支配された景色は、一時的な盛況に包まれるのだった。

10万人を動員したその観客の中に、現パルベサイツ家の当主であるピュービック・パルベサイツもいた。後に彼女自身述懐していることだが、ピュービックは鉱物そのものの反響を取り込んで鳴り響く弦の震えと天まで染み渡っていくようなスネアの乱打のうちに、アーティストとファンの区別を越えて、渦を巻いた熱狂と同時に飲み込まれていく感覚を覚えたのだという。そこにこそ、フロウタール中から集められた貨幣が投じられるべき「産業」がある。

エリス・チルズレイがカリム銀行から引き抜かれたのは、その数カ月後のことだった。パルベサイツ家の運営するイスの中央銀行は、その店名を通称上のファミリーネームとして頭取に引き継がせることが伝統だったから、エリスもこのタイミングで、エリス・チルズレイと改名している(それ以前の彼女の本名は不明)。

尚、ピュービック・パルベサイツは、上述のことからも分かる通り、エリスに彼女が首吊り島で行ったのと同様の融資をイス帝国内でも行うことを期待していた。成功者が生み出す金と、落伍者の管理によって多数の労働力商品を生み出す「新ヴィジョンへの投資」の仕組みは、低リスク高リターンを計算でき、且つロックフェスティバルという全く新しい音楽の楽しみ方をフロウタール圏内にもたらしてくれる。

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だが、上記に示したピュービックの目論見は、実際にはうまく行っていないのが現状である。というのも、周知の通りイス帝国はミラジ教徒の侵攻を受けて帝都を明け渡し、皇帝は傀儡として表向きプラトーを統治するばかりであり、アフォルムやプリスデンの一部の商店では正規の貨幣であるフィア銀貨の代わりにミラジ教徒のネンド硬貨しか受け付けない所も出てきている有様だったからである。

VR1150年現在、エリスは、得意とする金銭貸し付けの技量より、2つの貨幣の存在する帝国内のインフレーション対策、に追われ、イス帝国内の政治家と話し合いを続けている。ただ、こうした不得意分野にも積極的な姿勢で望むエリスの仕事ぶりはピュービック・パルべサイツにも好感されているらしく、ひとまず初めの二年間のチルズレイ銀行の業績は堅調に推移したようでもある。

最後に、冒頭で示した彼女の通り名についても軽く触れておくと、「才能を食いつぶす」というのは、ハングヘッドアイランドでの結果的に多くの蛸部屋労働者を生み出した新ヴィジョンへの投資、事業を揶揄したものであり、一方で、「白鴉」というのは、銀行勤務の際の服装になぞらえられている。

「手の平の盗人」ギルドなどの非公開団体との折衝等も行う行務への配慮から、チルズレイ銀行では、顔上部を覆い尽くす白い仮面と、羽飾りを模したようなチュニック姿が行員の正装となっている。エリス・チルズレイは、41才と高齢だがそのしとやかな美貌が予てから社交界で評判になっていたこともあり、上記、パルベサイツ家の業務に批判的な者からの声も合わせ、「白鴉」と呼ばれているようなのである。

一日の行動の優先順位

1 書類を整理する

2 部下の白鴉に指示を出す

3 イスの高官と交渉する

4 珈琲を飲む

5 宝石を眺める

6 ハンモックで眠る

SPECIAL
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闘争華美飽食享楽不寛勤勉渇望
33
空間時間
6
保持スキル交渉投資

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