さて、前項では配球論の基礎の
実際の運用について、
考慮される批判の側から、
一定の指針を示したわけですが、
ここからは更に具体的な、
打者の類型に応じた
配球パターンの構成について見ていきたいと思います。
前述しましたように、
打者の体の反応に対しては
内外角、高低、緩急の振れ幅を最大化する、
というのが私の配球論の一方の基礎でございます。
もう一方の基礎は、
打者の読みを外すための、
捕手のリードの側からの安易な規則性の排除です。
この点も以前の記事で述べさせていただきました。
ところで、問題は、
むしろそうして2つの基本を考慮しながら
構成されるべき配球のうち、
内外、高低、緩急の
どの点を優先して考えるべきか、
という優先順位の方です。
この点を考慮することによって、
捕手が投手に要求すべき配球の範囲は、
かなり限られてくると思います。
そして、その際にわたしが注目する点は、
打者のスイングの軌道、です。
たとえば、大きく分けて3つに、
打者のスイングを類型出来るとしましょう。
その類型とは、
ダウンスイング、レベルスイング、アッパースイング
の3つです。
ダウンスイング、については、
極端な例を挙げるとすれば、
投手の球をギリギリまで引きつけてカットするような、
日本ハムの中島のような選手を
仮定してみてください。
他方、アッパースイングの方はというと、
少し古いですが近鉄で活躍したタフィー・ローズとか、
去年の例で言えば中日のゲレーロのような軌道を
思い浮かべていただくとわかりやすいかもしれません。
ではレベルスイングは、というと、
これはある意味で癖のない好打者のすべてに当てはまるのですが、
去年の例で言えば横浜のロペス、
のような軌道を思い浮かべていただくといいでしょう。
ここまでのイメージでお分かりのように、
この、スイング軌道の類型というのは、
実際には、
打者が投手の球に対してコンタクトする位置、
によっています。
体の近くまで引き付ければ引きつけるほど、
スイングを初めたその振り下ろしの段階で
コンタクトしなければなりませんし、
他方、腕の伸び切った状態で
長打を狙おうとすればするほど、
相手の投球に対する振り始めを早く、
つまりは、読み、を入れていかなければなりません。
ですから、実際には、すべての打者のスイングの中に、
ダウンスイング、レベルスイング、アッパースイング
が含まれているのです。
そして、好打者であればあるほど、
その類型された3つのスイング軌道の移行は、
瞬時に行われることになるでしょう。
それが俗に、スイングスピードと呼ばれるものです。
勿論、体の一番近いところまですべてのボールを引きつけて、
圧倒的なスイングスピードで腕を伸ばしきって
ボールを飛ばせれば、
それに越したことはないのですが、
どんな巧打者であるにせよ、
その打者ごとに、
自分にとって最適なボールを捉える位置を
持っているものだと筆者は考えます。
そこが、まさに打者をスイング軌道ごとに類型化する余地、
であるのです。
では何故ここまで長々とスイング軌道の類型論を
語ってきたのかといいますと、
それは、前項までで記述した、
捕手の側からの最終的な結果球、を
措定する上で、
打者のスイング軌道こそがもっとも重要な要素だと
考えられるからです。
結論から言うと、
アッパースイングの打者に対しては投球に対する読みを入れなければ
ならない分(俗に前さばきと言われます)、
より速い球を意識させたり、
カーブやフォーク、チェンジアップなどの
ストレートとは球速さのある球種を利用して、
緩急、を付ける必要があります。
他方、ダウンスイングはと言うと、
ある意味でどのような球種、どのようなコースにも
対応しようとして待ち構えているわけで、
であればそこを逆手に取って、
打者の手の届きにくい範囲(主に内外角の厳しいコース)へ、
コースの甘い範囲から食い込んでいくような
配球が求められると思います。
最後にレベルスイングはと言うと、
ある意味、この最もオーソドックスな軌道に対して
捕手は、
高めを上から叩くのか、
低めを拾えばいいのか、迷わせるような、
高低の揺さぶりで持って、
その、スイングそのものが球を捉えようとする位置取りを、
変じさせる努力が必要になってくるでしょう。
ここまで読んでいただければお分かりのように、
緩急、内外、高低、という配球の組み合わせは、
相手の打者のスイング軌道によって、
有効性が変わってくるわけです。
上に述べたことをまとめますと、
アッパースイングに対しては緩急が、
ダウンスイングに対しては内外角の投げ分けが、
レベルスイングに対しては高低の揺さぶりが、
最も有効なのではないか、と筆者は考えます。
この考え方を採用しますと、
前項までで極端に複雑化したように見えた
配球論の基礎、は、
極めてシンプルにまとめ上げることが可能になってくる、
と言えます。
その場合、
捕手の思考の順序は、以下のような過程をたどると考えられます。
1 まず、打者のスイング軌道を類型化する。
2 次に、緩急、内外、高低のうち、優先すべき要素を措定する。
3 その上で、投手の球種のうちから、その打者を
最後に打ち取れる可能性のある、結果球を同定し、
その結果球を「最後に」投げられるような組み立てを考える
4 その最後に投げるべき結果球の前振りとして、
体の反応に対する振れ幅、と
頭の中の予想を裏切るための規則性の排除、を考慮しながら、
配球を組み立てていく。
以上のようなものです。
勿論、この思考過程を、各打者に対して完璧に遂行できる捕手は
いないでしょう。
素人が、野球を観戦しても分かる程度の、
このキャッチャー今度はここに要求するぞ、というような
癖が、捕手ごとに出てしまうのは当然のことです。
また、実際の野球というプロスポーツの試合においては、
ピッチャーの側の投げミス、
打者の側の打ち損じ、
の起こる確率の方が圧倒的に高いわけで、
筆者がここまでで展開した机上の空論がそのまま
確率論的に立証される可能性は、
ほぼ無いと云って良いかもしれません。
しかしながら、キャッチャーの配球論、として
各野球経験者や解説者の口から語られるものが、
全く外形的な基盤もなく、
ただ闇雲に語られているというのは、
いかがなものでしょうか。
お前が考えるほど単純なものじゃないよ、と
(もしこれを読んでくださる方がいたら)
数多の野球経験者の方にお叱りを受けるのが
目に見えるようではありますが、
ここでわたしが指示したかったものは、
そういった「配球論」全般の議論の基礎となるべき、
叩き台のようなものです。
ですから、もし色々とご批判があれば、その都度
その批判の妥当性によって改変されていくはずの
理論だと考えております。
ただ、シンプルで、素人にも思考しやすい
「配球論」を考えたかった。それだけです。
ここまで長々と記述してきましたが、
わたしの至った結論とは、
1 内外、高低、緩急という配球の振れ幅を、1球ごとに最大化する
2 配球が規則的にならないように、必ず
内内、内外、外内、外外、というシークエンスを組み合わせる
この2つの点のみです。
観戦するファンの目線としては、
まず打者のスイング軌道を類型化して、
高低、内外、緩急のうち有効な一つの要素を取り出し、
上に述べた2つの項目を捕手が遵守しているかどうか、
見ていけばいいと思います。
この理論の良いところとしては、
それこそ一球ごとに上の二項目にあてはまっているか、
検証可能なところです。
何故、あそこであの球を投げたのか、というような
結果論からくる曖昧さは一つもない。
勿論、この2つの項目を守ってリードしたとして、
100%相手打者を抑えられるとは限りませんが、
捕手のリードとして間違っていたか、
正しかったかを判断するための一つの指標にはなるでしょう。
繰り返しになりますが、
その指標自体が曖昧であってはいけない、というのが
筆者の主張です。
実際の現場におきましても、
捕手は経験が大事、というような言葉で片付けたりせず、
何らかの理論的なモデルで以って、
配球を指導することがあってもいいのではないでしょうか。
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