冒頭二日で死ぬ主人公「アーサー・ハーバーマン」

Mimesis of Frautal

VR1130年生まれ(~1148年没)  男性

アーサー・ハーバーマンは、スレッド諸邦のアムス出身の男性である。生前の姿より、死後の首吊島での彼の姿の方が一般には広く知られている。

そうは言っても、アーサー・ハーバーマンは初めから死んでいたわけではない。当然のことだが、彼にも青年と呼ばれる時代が在り、それが彼にとっての晩年でもあった。尤も、若くして死に絶えてしまう青年にはありがちのことかも知れないが、スレッド諸邦に生まれついた血気盛んな若者たちと同様に、アーサー自身も世界に対する強い野心と好奇心を命を危険に晒すのに十分なほど持ち合わせていたようである。

「冒頭二日で死ぬ主人公」。生前のアーサーを知る者は、衷心と物悲しさ、場合によっては軽い嘲りも含め、彼を懐かしみながらそう呼ぶ。16歳の頃から地元近くのフラマント山脈の麓で始まったザン教による公共事業の「ファーブルの塔」の建設現場アルバイトに精を出し、そこで貯めた金を彼はまず、ア・ハ出身の記憶=投射能力を保持する修道士への雇い賃として使い果たす。

そして、VR1148年、それまで二年間働き続け、立ち尽くしているのに飽き果てた建設現場から離れるため、彼はただ一人の仲間の修道士とともに、いよいよ冒険の旅に出かけるのだった……。

ただ、多くの読者の方たちのおそらく感じる通り、彼の彷徨は、あまりに唐突すぎた。本来なら、自身の最期を看取るべきア・ハの修道士を雇うより先、まずはナッソウの雇人登録ギルドにでも数年間在籍して、戦闘訓練を受けたり、冒険のノウハウを身に着けたりするべきだったのだろう。だがアーサーは(思いがけなくまとまった金が手に入ったせいもあってか)、父と暮らしていたアムスの村を飛び出て、イスとエロイーズとの国境沿いにずんずんと突き進んでいってしまったのである。

結果、彼に取り憑いたのが、「冒頭二日で死ぬ主人公」という異名だった。アーサーは、ちょうどトルーベンとヴァルツの中間の各国の緩衝地帯で、野盗に襲われて死亡する。さらに彼にとって計算外だったであろうことは、そうした不測の事態に備え、彼の「勇壮な死」をともに記録して死後投射してくれるはずのア・ハの修道士が、強殺の行われようとする現場に立ち会うどころか、さっさとアーサー一人をおいて逃げ出してしまったことである。

もし、二日間をともにした仲間である修道士が側にいて、愚かにも見舞われることになった他殺の現場を生の最後まで見届けていれば、冒頭いきなり死ぬことになったにせよ、他の静謐派の冒険者ギルドに登録した同胞たちと同様に、栄誉ある死に様を記録することができた。そして、その際に残された静謐派修道士の頭蓋骨は、不慮の事故で突発的に終わってしまう可能性のある冒険の「結果」として、少なからず後進のアーサーと同様に旅に出ようとする若者に教訓を与えられるはずだった。

しかし、彼の最期は単なる「無駄死に」だった。アーサーが出立前にアムスの役所からごく手頃な「指紋鉱石」を購入していたこともあり、彼の死はひとまず金と引き換えに彼を殺した野盗の集団によってスレッドの戸籍管理局に報告された。そして、父と仲間内での簡素な弔いを経て、魂はハングヘッドアイランドへと送られていく。

ただ、この後、無念を帯び、悔恨を残した人間として死者の図書館に郵送された彼の名は、フロウタール内の信仰をそのまま受け入れるとすると、首吊島で意思の残滓を死者のまま体現するのにうってつけの存在として、むしろ生きている頃の彼よりも広範な評判を得ることとなる。

彼の亡霊は、首吊り島の至る所に現れる、という。さながら生前にたどるべきだった冒険の旅路を、ハングヘッドアイランドに於いて存分に思い描くように、彼の霊魂は宙に浮いたまま島の隅々までを徘徊している。一部の発見者、たちの証言によると、彼は常に地べたに横になった態勢で、すやすやと寝息を立てながら訪問者の視界に潜入してくるらしい。

この姿勢をどのように解釈するべきかについては、それを見咎めた者によってかなり意見は分かれるところでもある。単に睡眠を楽しんでいるのだと取るものもいるし、何らかの悪夢にうなされているのだと考える者もいる。

しかしながら、生前の彼と最も親しかった幾人かの友人の意見を踏まえると(アーサーは彼らの前にも一様に「寝ている状態で」浮かび上がった)、彼の亡霊は、死の直前の、自身の姿の投影されたヴィジョンをきちんと誰かが持ち帰って、その、彼の唯一の仲間だった修道士の男の頭蓋骨に残された像を通し、新たに冒険に出る者の助けになっていることを想像して、幾多の旅人たちとともに冒険を楽しんでいる気になっているのではないか、と捉えられている。

この解釈は少しアーサーに好意的すぎるかも知れないが、少なくとも、昨今のハングヘッドアイランドに於いて最もよく見かけられる島一番の著名な霊体こそが「彼」であることは疑いようがない。首吊り島で必要な分だけの行動を勤勉の原罪、として示さなければならないアーサー・ハーバーマンの霊体は、上記、彼の友人たちによる解釈をそのまま受け入れると、何か自身で行動を始めることで生前の意思を表現するのではなく、すやすやと眠ることで、その睡眠の中で想像する旅路の行く末によって、自身の果たすべき目的を貫徹しようとしているようなのである。

尤も、それが「既に死んだ状態の」、「夢の中で」しか続行できないことについては、彼に助言しないほうがいいのかも知れないが……。

一日の行動の優先順位

1 右側頭部を下にして眠る

2 寝返りをうつ

3 仰向けに寝る

4 いい女を抱いている自分を想像する

5 何か高い評価を得ている自分を想像する

6 下腹部に生えた毛の辺りを掻く

SPECIAL
4456659
闘争華美飽食享楽不寛勤勉渇望
6
空間時間
6
保持スキル睡眠夢想

コメント