未来からの殺人者「ヴィト・モンタージュ」

VR１１２３年生まれ　男性　色相の転換者

ヴィト・モンタージュは、出所不明、行方不明の男性である。末梢の抹消財団の、組織内暗殺者として、組織員の粛清と統制に尽力している。

来歴

彼が、未来からの殺人者、と呼ばれるのには理由がある。本来、末梢の抹消財団のような規模の小さい組織の人員が裏切り者や密告者を探す場合、明確な証拠に基づいて、局所的に外とつながっている「犯人」を除外するべきだろうが、ペリファレル・ディレイターの場合は、そうした丹念な検証に基づく過程を取らない。

組織内での人員同士の不信や仲違いが、外部からの要請に情報提供者や監視人として結びつく「前」に、常に事前に、裏切り行為を執り行う可能性のある人員を見つけ出して、速やかに処理してしまうからである。

こうした、ヴィト・モンタージュという人物に与えられた役割の特色から、必然的に、彼自身について述べられた情報は極端に少ない、と言える。恥ずかしながら、今、ここに記載するわずかな事柄も、スレッドのバルシアンに本拠を置く「アンサイト・エクスプラネット」社が、かつて一度だけ、ペリファレル・ディレイターの集会所に潜入取材して著された季刊誌の情報を参照してまとめ直しているのにすぎない。

とは言え、そのアンサイト社の発行した雑誌の紙面上には、かなり詳細な、当時約１８名の各メンバーに関する紹介がなされてもいる。そこで、今回のヴィト・モンタージュの項をもう一度たどると、そこには、末梢の抹消財団が晒され続けなければならない組織内事情が明確に浮かび上がってくる。

その事情とは、端的に言えば、一般的に世に流布されている暗殺者集団以上に、彼らの組織の場合は、極めて多額の寄付金と要望が動くことである。この辺りについては、末梢の抹消財団の設立理由について記した別記事と、さらには「裁かれざる罪の一覧証書」について記した別項も同時に参照して頂きたいのだが、とどのつまり、彼らは「抹消」しようとする対象を何故この世から消去するかの明確な理由を提示した上で、その選定の候補者になりうる対象と寄付を同時に募る、という特殊な実践の形式を採っている。

だから、半ば公開されている選定そのものの実際の過程と、各所から集められた巨額の寄付、という組織にとって重要な機密の両者は、全フロウタール中の主だった権利団体の抱える情報のうちでも、最も付け狙われやすく濃厚な内部事情のひとつなのである。わずか十八名足らずの組織構成員がそのような機密を守り通さなくてはならないとしたら、セキュリティ上の負荷が如何に大きく伸し掛かるか、改めて推し量る必要もないだろう。

前置きが長くなったが、だからこそヴィト・モンタージュは、予め、裏切りの芽が成熟しきってしまう前に、個々の精神の上での疑念や不信の発芽を読み取って、根本から摘み取ってしまうのだ。念の為断っておくと、ペリファレル・ディレイターの人員は「抹消」の為の特殊な戦闘能力が求められているから、全て色相の転換者であることが前提でもある。よって、それらの各員を俯瞰した上で、思い立った時にメンバーの所在ごと「消す」とすると、冊子の中で紹介された十八人のメンバーのうちでも最上位に近い実力をヴィト本人が所有していることにも疑いはない。

ヴィトによるドクメンタ・キャンセレーション（記録の消去）について、今の所分かっているのはこんなものである。無理やり結論付けるとすると、その実像は、ペリファレル・ディレイターによる末梢の抹消への周囲の民衆からの印象とも相まって、何か超然的な、すべてを知っていて、然るべき所に制裁を下すようなイメージ、もしくは全く逆の、ありもしない罪を一方的に作り出すようなイメージとして浮かび上がらさせられるだろう。一方で、

「ヴィトとか言う男は、未来に起こることを予見して、裁定を下す宇宙人かなんかなんだろう」。

「彼は、実際に未来からやって来て、将来犯罪者になるものを駆逐してしまうんだ」

というような他愛のない巷間の声が示すとおり、一般的な、フロウタールの住民にとっては、「未来からの殺人者」というヴィト・モンタージュの異名はあくまで都市伝説の一つに過ぎない。