虐殺クルーズ船旅行のツアーコンダクター「モーシン・ベンアルファ」

Mimesis of Frautal

VR1120年生まれ 男性

モーシン・ベンアルファは、エロイーズのクセナルージュ出身の男性である。その後、スルナにあるエロイーズ・セックス協会の支部に加入し、マンションに移住した。

彼の出身地であるクセナルージュというエロイーズ北部の寒村は、風変わりな慣習を持つことで知られている。というのも、彼の村は遠く神話の時代、ヴァリナ・ヴァグナの二人の姉妹が生誕したとして知られる土地であり、その伝承の発祥から2000年以上が経った今も、村人の多くは言い伝えの一部を信じ、村の風習を守ろうとしているからである。

片方が極端に美しく、片方が極端に醜女だった、という双子の姉妹の伝説の詳細は別に譲る。が、とにもかくにも、村で未だに守られているという姉妹による呪いを解くための慣習とは、以下のようなものである。つまり、村を大きく2つに分け、片方には村の自治組織である「審美眼」によって美しいとされた男女ばかりが集められ、もう片方には同様にして醜い、と判断された男女ばかり集められる。そして、「美人村」に住む男女は互いに結婚できず、逆に「不細工村」の男女も同じ村の中での結婚を禁止され、互いに美人と不細工が常に組み合わされ、交換され続けなければならない……。

ところで、当のモーシンはと言えば、彼は生まれた瞬間から不細工村に振り分けられていた(村の長老たちに判断された子供の器量に応じ、両親も不細工村の方に移り住む)。そうして、将来は美人村の女との結婚を約束されていたわけだが、彼自身はむしろ、クセナルージュの側のイシュタル湾に沈む夕日に魅せられていたという。勿論、幼少の彼に具体的な女の美しさなど分かるはずもないのだが、そのままの無垢さで、男も女も、老人も少年も分け隔てなく照らし出す太陽の方を美しい、とシンプルに感じていたようなのだ。

目を痛めるから直接見るのはやめろ、と何度親に言い含められても彼は太陽を見つめるのを止めなかった。3歳のとき、母を喪ってからは特にそれが顕著になった。放射状の光がまばゆく発出される線の歪みと中央の本体をしばらく見つめてから目を閉じると、差し込んできた形状に比例し、反映された光の残像が目の中に残る。モーシンはまるで、自分が今まで見つめていた太陽の陰影そのものをまぶたの裏に閉じ込めているような気になり、その感覚を延々と味わい続けて、一日の半分ほどを過ごしていた。

しかし、こうした禁止された遊びを幾度もこっそりと繰り返した結果として、当然のことながら、彼は、極端な弱視に見舞われるようになってしまう。

「だからやめろと言ったんだ!」とその時モーシンは父にこっぴどく叱られたと云う。が、それでも親一人、子一人の父はやさしく、すぐに村から少し離れたスルナに行き、当時まだ開発されたばかりだった眼鏡を買い与えてくれる(モーシンが六歳くらいの頃)。

ニック・デラ・コルテ、というディレリア出身の眼鏡デザイナーの作った凹レンズ付きの装身具を、モーシンはたいそう喜んで身に付けたらしいのだが(この辺りからの記述は、後に彼が起こす事件への声明とともに行われたインタビューの中からの抜粋を伴う)、この、彼のお気に入りの眼鏡が、モーシンの人生の焦点を幾重にも転じさせていくことになるのを、その時点では誰も知る由もない。

そこで、まずはじめに起きた転機とは、まさにメガネを掛けたことそのものによる間接的な影響だった。モーシンは、生まれたときから極端に目が大きく、幼少の頃に患った近視も伴って、眼球の飛び出たような醜い容姿をしていたのだが、矯正用のメガネを掛けることで、うまい具合にそれらのバランスが再調整され、俗にいう影のある美男子、物思いに耽る草食系男子、に変わってしまったのだ。

これによって彼は村の「審美眼」の諮問に掛けられ、9歳の頃からは美人村、の方への居住区の変更を余儀なくされる。

少し飛躍するようであるが、その後の彼の約10年間のクセナルージュでの人生をまとめると、率直に言って、うまく行かなかった、らしい。不細工村に住み、将来の美人との結婚を約束されて農夫か漁師として暮らせばよいと言い含められていた少年時代は、いつの間にか同郷の不細工との婚姻を迫られる未来を憂う、暗鬱な青年時代へと変わってしまっていた。

モーシン・ベンアルファは、この段に来て古臭い風習のまかり通る村外への逃亡を、どこかのタイミングで画策しようと考えるようになる。

彼が村を出たのは、ちょうど父が亡くなってから一年後のことだった。19歳の夏、幼少期の頃の父との思い出を追うように、モーシンは彼が初めにメガネを買い与えられたスルナへ向かう。そこで、なんとなく迷い込んだエロイーズセックス協会の支部が、彼の人生を変えるための更なるきっかけを与えてくれる。

「今まで悩んでいた時間が勿体なかったね、いっしょに人生取り戻しちゃいましょう!」

セックス協会の支部の前にでかでかと貼られた標語が、まさにその時の自分にぴったりハマる気がした、と後になってモーシンは語っている。エロイーズでも稀有な美男子を輩出すると有名なクセナルージュの若者の一人だったから、モーシンは一度目の面接でそのまま採用され、以後十年以上もの間、エロイーズセックス協会のエクササイズホストとして働くことになるのだった。

だが(またもここで唐突な展開をお許し願いたい)、何事にも終りが来る。モーシンの場合は、小さい頃に太陽を眺めていた目の形状がまたもや問題になる。彼は、スルナの支部からマンションの本部に移って中年の協会会員女性たちとエクササイズに性を出すうち、最早メガネを付けなくても何の問題もないほど(逆に近視矯正用のレンズをしていると焦点が合わなくなるほど)視力が良くなってしまったのである。

このことは彼にとって致命的だった。ある日、モーシンがふと思い立って眼鏡を装着せず職場に現れた姿を見て、彼の上司は即刻彼に「クビ」を言い渡したのだという。不細工村、の方に生まれた瞬間から振り分けられた相貌をありのままに見せつけただけだったのに、彼はセックス協会の会員の腐女子たちといっしょにエクササイズをするのにはふさわしくない、と一瞬で断じられてしまったのだ。

こうして彼は、不細工、と美男子、の境界をさまよった後、十年勤め上げた職を一瞬で失ってしまうに至る。しかしながら、常時反転し続けるこの話の結末の手前には、さらなる些細な展開がある。(この点については、別項のセックス協会のファンの女性の半生の記述のほうが詳しいのだが)、この、セックス協会からのあまりに不当な解雇にあった後、モーシンは或る企てを思い立つ。

その、VR1148年に行われた「人柱」に纏わる計画こそが、彼を「虐殺クルーズ船旅行のツアーコンダクター」として世に知らしめることになった話の本筋なのである。だから、何故かこの項において、実際の事件以前の彼の半生のみを記述した点をお許し願いたい。ただ、一方で、ここまでの下りを読んでくれた方にとっては、初め不細工村に生まれつき、その後、美人村の側に編入され、そしてエロイーズセックス協会でも屈指のエクササイズホストになった後に、唐突に再び「不細工」の烙印を押される形となった男の心情は、ご想像して頂けると思う。

アイドル的な立場から、全く中年女性にすらも相手にされなくなるほどのブス面に成り下がることの虚しさ。そしてそこに手を差し伸べてくれたのが、一部にとっては悪名の知れ渡る「ハンナ・ピエッタ」だったことも、彼の人生の一連の不運を物語っているとも言えるが、その後の話の進捗は繰り返しになるのでここでは控えよう。

VR1148年の7月、クルーズ船を奴隷船に変えた一連の事件の後は、モーシン・ベンアルファはマンション周辺から姿を消している。尤も、最後に一つだけ彼のために弁明すると、そもそもハンナ・ピエッタ、以外の女性たちへのペリファレル・ディレイターへの密告は、個別に、別々の人間によって行われていた、ようなのである。つまり、モーシンが拘ったのは最後の「中年女たちを船におびき寄せる」ための仕掛けの部分のみであり、それ以前の、エロイーズセックス協会のファンたちへの殺害要求は、数十人、数百人単位でのフロウタール人民からの請願として、寄付を兼ねる形で、予め共有されていたわけだ。

とは言え、彼が「末梢の抹消財団」と共謀し、一方的な大量虐殺に加担したことは疑いようがない。モーシン・ベンアルファは現在、財団の主要メンバーとともに複数の殺人の容疑をかけられ、フロウタールの各国から国際指名手配を受けている。

一日の行動の優先順位

1 ずれた眼鏡をかけ直す

2 濃いめの髭を剃る

3 筋トレメニューを暇を見てこなす

4 水面に自身の姿を映す

5 周囲を警戒する

6 太陽を見つめる

SPECIAL
5845667
闘争華美飽食享楽不寛勤勉渇望
51
空間時間
06
保持スキル体操釣り水泳

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