グロース神殿の人柱として立てられた白豚「ハンナ・ピエッタ」

Mimesis of Frautal

VR1109年~1148年(故人) 女性

ハンナ・ピエッタは、エロイーズのヴァルツで商店を営んでいた女性である。仮に白豚、としているが、それは彼女が影で呼び習わされていた蔑称であり、本人はれっきとした人間である。

サウル山脈から遠くスレッドのスプレイにかけて注ぐジウル川の支流という土地柄を利用し、生前のハンナは、上述のとおり商店を経営していたわけだが、その評判はすこぶるよろしくない。

というのも、定期的な出産を義務付けられた妊娠用の豚のように、両親から手厳しく育てられたというハンナは、自身が与えられたのと同様の教育方針を新たに商店に雇い入れられるアルバイト店員にも課すことを強く望んでいたようであり、結果として、その店に勤める全ての人間が、ストールに閉じ込められた家畜として、ぎすぎすと萎縮し、神経を病んでしまっていたからである。

生後すぐに親に対して歯向かわぬようニッパーで歯を抜かれ、計画性のない性交を抑制するために麻酔抜きで去勢され、尻尾を切り取られた豚と同様に育てられた従順な人間が、果たして、伸びやかな環境で従業員を育て上げることなど可能であるだろうか。

いや、「ピエッタ・食用品交易所」に雇い入れられた店員のほとんど全ては、雇い主と同じように生気をただ生きることにのみ向けた鈍感な体に成り下がり、日々の喜びを「休息とともに与えられる餌」の中にしか見出さない人間として養育されていたのだった。

ただ、上記のような経営姿勢だと、どこかのタイミングで、従業員の側の怒りの破裂や、あまりにやる気のない店員に呆れた客側からのクレーム等、店の健全な運営を破綻させる結末に辿り着くことは想像に難くないだろう。

ハンナの場合は(彼女の商店が不寛容の原罪のイスの国との国境沿いということもあってか)、アルバイト店員による店の惨状の、とある組織へのタレコミによって人生の悲惨な瓦解が始まる。下記の記録はその、ハンナの死を望んだ人間による、計画と計画の遂行に対する(新聞記事に表明された)手短かな報告の抜粋である。

ハンナ・ピエッタにとっての唯一の好物な餌は、ヴァルツからちょうど県境を超えて南東の、マンションに本部を置くエロイーズセックス協会で行われている週に一度のエクササイズだった。セックス協会に所属する磨き上げられた体躯を持つ若い男たちの指導を受けながら、ぶよぶよと肉のついた下腹部を締め上げる。

午後は、そうしてフィットネス指導をしてくれた男性たちで作られたアイドルグループのコンサートにも顔を出し、週に5日、個人で商店を営む結果得た金を、ぼとぼととありったけ落としていく。こうした羽振りの良さは、彼女の友人のサロンメイトにとっても、ちょっとした評判の的になっていたようだ。

死の一ヶ月前、ハンナのそうした性状を利用した、ある手紙が犯人から彼女へ送られてくる。そこには、かつてエロイーズセックス協会に在籍していたアイドルグループメンバーの一人の名前が記されてあり、かねて自分を支援してくれたサロンメイトの一部に、秘密裏にその手紙が送られていること、そして、数週間後に予定されている、フロウタール初の試みとなるガレオン船を利用した「船上での」エクササイズへの参加要請が記されてあったという。

これを見て、ハンナ・ピエッタが飛び上がるように喜んだことは想像に難くない。だが、ご承知の通り、そもそも海上でのファンミーティングなどは存在しなかった。

この、ハンナ・ピエッタのようなアイドルファンの中年女ばかりを集めた大量虐殺事件の詳細は別に譲るが、やはり経過だけを手短に述べると、三十数名ばかりだった彼女たちは、集められ、拘束され、日々の暮らしの中でいかに周りの人間に悪影響を与えているかという罪状が一人一人読み上げられ、有無をいわさず殺され、死体ごと船に載せられたままグロース島にたどり着き、そこで新たに神殿を作るための人柱として立てられている。

つまり、ハンナ・ピエッタは、彼女の常日頃の生活ぶりを熟知する者が、何らかの巨大な組織の力を借りて、他の被害者と同様に計画的に殺害された、ということができるだろう。

残念ながら、上記の新聞記事への投稿者はその殺害の前段階としての彼女の日々の性状の報告、をした経緯や動機までは記載していないのだが、この記事の冒頭で述べたとおり、ハンナは周りの人間に厳しく当たっていたようだから、彼女に恨みを持った人間が計画に加担していた可能性は高いものと思われる。

他方で、ハンナ他の人間を計画的に殺害した組織の方は、組織自らの犯行声明とともに既に公になっている。その組織とは、「ペリファレル・ディレイター」である。彼らは、どうやら財団に寄せられるフロウタール住民からの陳情の幾つかを選別し、密偵を放ちながら、抹消されるべき人間のリストを作っていたようなのである。そして、そのリストに載っていた「裁かれざる罪」の一覧に、偶然にもエロイーズセックス協会のファンの中年女たち、が一致してしまったらしいのだ。

だから、ハンナ・ピエッタ他の数十人の女性は、素性を裏付けされた後に、まとめて船上で殺された(ここでは敢えてその一方的な残虐行為の是非は問わないようにしておく)。

最後に、こうしたハンナ・ピエッタという女性のたどる短い人生の結末とは別に、グロース神殿の現在の施工状態にも触れておきたい。冒頭から、この項では「人柱」という言葉を使用した点をお許し願いたいのだが、厳密に言うと、フロウタール圏内においては、ザン教の信仰を持つにせよ、ミラジ教の信仰に組みするにせよ、「人柱」のような古い風習を採用する地域はない。

では何故、ハンナ以下、三十余名の女性の体が人柱、として立てられる、という表現を取るのかと言うと、これは前述の、ペリファレル・ディレイターによるミラジ教への意趣返しの側面が強い。末梢の抹消財団の幹部らは、兼ねてからミラジ教によるイス帝国のプラトー支配を敵視し、「ドメイン転生」の思想も軽蔑していたから、「人柱」という人類にとっては比較的古い風習を、無理やりミラジ教の神殿建設予定地だったグロース島、に輪廻の考えを模倣するような形で、人ごと地中に沈め、押し付けようとしたらしい。

この結果、ハンナ・ピエットはグロース神殿の地中に埋められた人柱となった。その後、ミラジ教徒が、ペリファレル・ディレイレイターの試みなどは意に介さず、そのまま工事を始めたことは、一部の人間にとって計算外だったに違いないのだが……。

(かつての)一日の行動の優先順位

1 アルバイトを手厳しく叱責する

2 アルバイトの仕事のあら捜しをする

3 セックス協会で教わったエクササイズを実行する

4 アイドルグループのメンバーを想う

5 珈琲を飲む

6 ナッツを食べる

SPECIAL
3586653
闘争華美飽食享楽不寛勤勉渇望
1212
空間時間
15
保持スキル叱責散財

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