三国志将棋 試案

信長将棋

さて、わたしが今回ご紹介いたしますのは、「三国志将棋」の案でございます。
その名の通り、三国志、と将棋をかけ合わせたものなんですが、では具体的にどのようなものなのかというと、まずは実例を見ていただいたほうが早いかと存じますので、以下の画像をクリックしてみてください。

(尚、いかに実例を示すに辺り、PC版金沢将棋の盤面構成機能を使用させていただきました、重ねてお礼申し上げます)

1,官渡の戦い
先手から見た図↓

後手から見た図↓

先手が曹操、後手が袁紹です。

上図で示しましたように、三国志将棋とは、史実の中で行われたであろう実戦の布陣例を、将棋のルールの中に落とし込んだものです。

わたしはこの三国志将棋を、大きく分けて2つの目的のために考案致しました。

その一つは、将棋、もしくは三国志、双方のいずれかにしか興味のない方に、どちらかをきっかけにして、いずれかの興味のない側のことも知ってもらう機会を設けるためです。

他方、2つめの目的としましては、いわゆるハンデ戦、と云いますか、実力差のある方同士で将棋を指す場合、の遊びのヴァリエーションを増やすためです。

勿論、上手、と下手、のなかで構成される将棋自体にも、相応の歴史があり、勝手に弄ぶなとお叱りを受ける部分もあるかもしれませんが、たとえば将棋を覚えたてのお子様などに、ある種の遊びの間口を広げるための概念図、のようなものがあってもいいのではないか、と思い、これを考案した次第です。

というわけですので、これは何も「三国志将棋」でなくても良いのです。

記事の終わりの方で、戦国時代版の「信長将棋」にも触れますが、極端な話、「古代ローマ将棋」でも、「ゲルマン将棋」でもいい。とにかく、将棋ファンの中に、別ジャンルの、(今回の場合は将棋というジャンルに親和性の高いと思われる歴史、)ファンを取り込みたいというのが、繰り返しになりますがわたしの趣意です。

前置きが長くなりましたが、上で示した図に戻りますと、これは必然的なことですが、「官渡の戦い」の配置は、はじめに割り当てられた駒の配置を除き、将棋のルールをそっくりそのまま遵守していることが求められます。

ただ、ひと目見てお分かりの通り、

1,最初から成り駒がある。
2,互いに歩を持ち駒として持っている。
3,形勢はむしろ、拮抗せず偏っている。

という以上の三点が、「官渡の戦い」という歴史上の戦いを表現するために配慮されています。

あと、もう一つ、これは上に述べた将棋のルールをすべて遵守する、というテーマからは逸脱しかねないのでどこまで設定するかはまだ決め兼ねているのですが、「駒の忠誠心」の問題があります。

つまり、関羽や張遼、荀攸や荀彧は相手の持ち駒にならないのです。(袁紹の配下にはならないという意味で)。三国志ファンとしてはこの規定は入れたいのですが、将棋の基本的なルールからは外れてしまうので、この規定を駒に適用するとしても最低限にすることが望ましいのかな、と現段階では思っています。

以上述べてきたことが、この「三国志将棋」の趣意です。読んでいただいた方にはお分かりのように、このゲームそのものには、運用される側の目的に応じてルール設定を改変するための幅があります。

はじめに割り当てられた駒の布陣図、だけを利用して、(厳密な意味での将棋に近い)
ハンデ戦を行うことも可能ですし、上に示しましたように、「駒の忠誠心」の概念を入れて、三国志の設定の側に近い概念上の遊びをすることも可能です。

それ以前に、わたしが示しました「官渡の戦い」の布陣図自体への異論も、当然あろうことかと思われます。その場合は、その人にとっての官渡の戦い、を盤面上で表現して頂ければ良い、と思っています。それ自体、を考え直すことも一つの遊びに成りうるでしょう。

というわけですので、以下に示します幾つかの実例は、その遊びの幅、において、どのような可変性を持たせられるかのヴァリエーションに成ります。具体的に見ていきましょう。

2「夷陵の戦い」
先手、劉備

後手、陸遜

この戦いは、劉備側圧倒的不利なんですが、その点を再現するために、「火計」として、陸遜側の持ち駒に角を二枚配してあります。

他方、劉備側への救済措置としては、「石兵八陣」として、はじめから龍の状態で貼れる持ち駒を用意してあります。

問題は、その火計、と石兵八陣のタイミングで、初めから使えるようになっていては、設定とかけ離れてしまうので、たとえば、火計については二十手目から、石兵八陣に関しては六十手目から、というように、使えるようになるタイミングを決めておきます。

後は互いの武将の忠誠心の問題も含め、この盤面の構想は、かなり三国志よりというか、通常の将棋のルールからは逸脱する部分の多い設定になっているかと思います。

初めに示した「官渡の戦い」が将棋側に寄せた下限、だとするなら、こちらの「夷陵の戦い」は、三国志側に寄せたルール逸脱の上限、とでも云うべきでしょう。

3「劉備の入蜀」
先手 劉璋

後手 劉備

時系列が前後するようで申し訳ないんですが、三つ目の例は劉備の入蜀、となります。この概念図に関して申し添えておきますと、敢えて色分け致しました、馬超と馬岱の存在です。

厳密に言えば張魯側で劉備と対決することになる馬超と馬岱ですが、ここではその二人が劉備側に付く、という一点を、劉璋攻略線のきっかけとして規定しておきたいと思います。

二十手目、くらいで、馬超と馬岱は後手側に無条件で帰属します。ですので、劉璋側としては、馬超と馬岱が劉備とまだ戦っているうちに、先手を取って仕掛けていくことが求められます。戦力的には不利ですが、二人がにらみを聞かせているうちはまだ勝負の仕様がある、ということです。

4「定軍山の戦い」
先手 劉備

後手 曹操

ここでは定軍山の戦いを含む関中の一連の戦いを概念化しました。この戦いは、初めに示した「官渡の戦い」と同様に、先手、後手の形成がある程度拮抗して作られていると思います。史実と同様に、若干曹操側がが不利ではありますが……。

5「赤壁の戦い」
先手 周瑜

後手 曹操

翻って、この戦いは、かなり極端な形勢、というか、初心者側が周瑜の側を、上級者の側が曹操の側を持つのに適した、曹操軍不利、を図示した内容となっております。

ただ、陣形上は極めて不利なのですが、後手側は歩をたくさん持っているので、上級者であれば指し様があるのかな、と。

また、夷陵の戦いで持ち駒として提示されていた「火計」は、黄蓋、諸葛亮の並びとして、魏の船団を打ち破るための突端として示されています。

そして、諸葛亮は、最初の五手目までで無条件で盤上からいなくなります。(遠方に配された張遼と夏侯惇は、曹操側への救済措置、ということで)

6「街亭の戦い」
先手 諸葛亮

後手 曹叡

この戦いに、本来司馬懿は参加していないはずですが、魏側の武将が足りなかったので、三国志演義的な設定を取り入れております。

馬謖と王平に逃げようがない、と言った所に、この戦いの物悲しさがあるでしょう。持ち駒の歩の多さも含め、曹操軍極めて有利な形勢として考案しました。

……以上が、わたしが「三国志将棋」として考案しました盤面の一例となります。

一例、としましたのは、わたし自身が他に無数な図面を保持しているからではなく、(もしこの企画に興味を持ってくださる方がいれば)そのどなたかが、他の戦場について、いかようにも考案可能だと考えるからです。

また、盤面を考案するための素地につきましても、必ずしも「三国志」という題材には限定されず、他の時代、他の地域から設定を引っ張ってくることも可能なのは、前述したとおりです。

そして、盤面上の設定に関しましても、ゲーム性の拡張を目的として変更したり、他方、史実に基づいて微妙な部分を調整したり、といった、事後的なアレンジはいつでも可能となっております。あとは、ユーザーの方が遊び、を最適化しようとするのか、将棋の習熟のための配置を目的とするのか、のバランスの問題と言えるでしょう。

まとめますと、この三国志将棋は、2つの異なるジャンルのファンの双方に、その楽しみを掛け合わせるような効果をもたらせればいいな、と思って考えられました。

ただ、筆者は、将棋というゲームのルールに根ざしている限り、その将棋のルールへの理解を深める、ということが本来の目的である、とも思っています。

そういった意味からしますと、ある種の駒の配置の最適化、は(仮にこの企画が深化していけば、の話ですが)必須であるとも考えます。

仮に、そういった過程を経て、ハンデを付けた(もしくは付けない)勝負のための最適なバランスとしてこの歴史的事象を扱った盤面の規定が浸透していけば、たとえば、将棋を使ったイベントでの簡単な企画として、アマチュアのファンの方も巻き込みながら楽しむのにちょうどいい、ものになりうるのではないでしょうか(筆者の勝手な願望ですが……)。

最後に、あとひとつだけ書き忘れてしまったのですが、それは駒の読み上げについてです。たとえば、一番上の官渡の戦いを例に取りますと、先手、三4関羽、とか五5張遼、とか、そういった読み上げ方に成ります。これはこれで一興かと。

少し記事が長くなりすぎてしまったので、「信長将棋」に関しては別記事にまとめました。そちらもぜひお読みになってみてください。

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