自身の体に空いた海蝕洞穴で唄を歌う少女「ゼリカ・ラブランス」

Mimesis of Frautal

VR1133年生まれ 女性

ゼリカ・ラブランスは、クセナルージュ村出身の女性である。イシュタル湾の側の断崖絶壁に空いた海蝕洞穴の一つに泳いで入り込み、干潮時には必ずそこで唄を歌っている。

ゼリカがこのようにしてこっそりと村を抜け出すようになったのは、彼女自身が極度の恥ずかしがり屋だったこともあるが、それ以上に家族による助言が大きい。

幼少の頃、村のチャペルの合唱隊で歌っているゼリカを見て、彼女の両親はある懸念を抱いた。微妙な音程のズレを伴いながら、それが個別の声として響き合う一般的な合唱の光景とは何か別の、チャペルそのものの天井と壁に陶酔しきっているような表情を(指摘は彼女の父親本人による)、隊の最前列で湛えていたからである。

折しも、ゼリカの先鋭的で透明なチャペルでの歌声が付近の村々で評判になりかけていた頃合いだったので、父は、ゼリカの12歳の誕生日以降、彼女が合唱団で歌うことを禁止する。この処置は、少し厳しすぎるように聞こえるかも知れないが、パルム・サーズビリアの神話の時代からの風習の色濃く残るクセナルージュの土地柄からすると、致し方ない部分もあったのだろう。

代わりに、ゼリカの父親は、娘に秘密の練習場所(現在も唄を歌っている洞窟内)を教える。イシュタル湾に面した村の東部は断崖絶壁になり、波によって削られた海蝕洞窟も多かったので、そのうちの、比較的入り込みやすく、且つ干潮時にしか入り口を表さない洞穴での孤独な練習を指示することで、ザン教の元司祭だった父はゼリカの唄の中に時間への意識と生命への危機感を植え付けようとしたのだった。

父が「そこでなら、声をだすのを我慢せずに思いっきり歌える」、と言い添えて説得すると、ゼリカはむしろ喜んでその提案を受け入れたらしい。が、一方ですべての秘密は、予め解き明かされる可能性を前提されてもいる。

縮れ波の海に面した海蝕洞穴においても、その、上部に空いた崖の上の「地上」との接合部から、いつの間にか合唱団から消え去ってしまったゼリカの声を盗み聞く者、が存在した。というより、その開口部からのゼリカの練習を聞くために集まる者たちは、いつしか彼女の声の熱心な聴衆を形成していた。

穏やかな潮騒が、曇り空の下でリズムを形作る。海と空の間にむき出しになった丘の上で寝そべりながらゼリカの声を一度でも聞いたことのある者たちは、彼女の声が「空間を震わせる」と口を揃える。隙間を隔て、数メートル下の洞穴から響き渡る「音」は、(彼らからしてみれば)大地に開けられた口蓋を通して呼吸とともに震える「息」を直接汲み取る振動だったのだ。

一日に少しずつずれていく彼女の練習時間が運良く夕暮れに合わせられ、足元の口蓋から漏れ出る吐息を耳のうちに捉えられたなら、ゼリカがまさに時間神の神性の至上の表現者であることを理解できるだろう。音は、空と海の境界に沈む半円の輝きと一体となる。一度でもいいから、ゼリカが潜り込んだ洞窟の中へ直接居合わせて、吸い込まれた息の充満する音響に直接身を震わせてみたい。そうすれば、彼女の肺の中に溜め込まれた光そのものに、体ごと分解されるような振動を覚えられるだろう……。

聴衆は皆、その光の濁流を想像する。溶岩洞なら溶岩洞、石灰洞なら石灰洞のけば立った壁に沿って音を充満させられるはずのゼリカの声は、ひとまずこの丘の亀裂の下に存在している。計らずも、洞窟の湿度に引き寄せられたカマドウマや蝙蝠の類のみが、現状ではダイレクトなゼリカの歌声の唯一の検証者、というわけだった。

クセナルージュの一部の聴衆から漏れ出たゼリカの声に関する評判は、場合によっては誇張され、場合によってはエロイーズ東部の土地柄に沿うように装飾され直し、積極的に流布されていく。その全てを、根拠の無いものとして否定するのは容易いのだが、ここでは最後に、そうした噂のうち最も重大だと考えられる一つを取り出して、ゼリカ・ラブランスの今後のありうべき運命とも予め接続し直しておきたい。

そこで考察される噂とは、イシュタル湾の洞窟壁画に関するものである。前述したとおり、クセナルージュの東部には海蝕洞穴が幾つも形成されているのだが、それら、波浪によって侵食された洞穴の数々は、さらなる時の経過を伴い、内部で幾つかの経路を形作り、陸部の奥へ奥へと接続されている。そして、そこにはいつの時代に描かれたのか、最深部への「順路」を示すように、光そのものの充溢を壁一面に描いた一連の洞窟壁画、が存在している。

「光の遊歩道」と呼ばれるこのイシュタル湾の海蝕洞穴の壁画はフロウタール内でも名所として名高いが(一方で、エロイーズ王国によって一般への公開は中止されている)、最後に付け足さなければならないのは、この壁画とゼリカの関係性についてである。一部の、噂好きの人間のまことしやかに示す俗説によると、どうやらゼリカは、この最深部への「最短の」道筋を知っているらしいのだ。

仮にそれが事実だとすれば、洞穴の最深部に眠るとされるアーティファクト、「シールド・オブ・ヴァリナ」を探索しようとする冒険者にとって、格好の道先案内人、ということになってしまう。

この噂は、あまりに調和的でありすぎるため、クセナルージュの村内ですらもまともに信じられていない。敢えて、少し穿った見方をすると、エロイーズ北岸の村々に住む人々は、そうした真偽のはっきりしない噂を幾つも保持することで、神話上の逸話に基づく風習の残る共同体の秩序を維持しているとも云える。いずれにしても確かなのは、そうした「言い伝え」を保持するためにはそれなりに現実的な触媒も必要、ということであり、洞窟で唄うゼリカの声は、まさに村々の人々の過ごす夜明けと夕暮れにとって格好の詮索材料ということなのだろう。

VR1150年、ゼリカはちょうど17歳になる。彼女が、今後もしばらくそのまま洞穴内で唄っているのか、地上に出てきて空に向かって歌声を披露するのか、現在の所は誰にも分からない。

一日の行動の優先順位

1 歌の練習をする

2 入り江を泳ぐ

3 潮を読み取る

4 焼き魚を食べる

5 枝豆を食べる

6 夕日に照らされる

SPECIAL
31056758
闘争華美飽食享楽不寛勤勉渇望
321
空間時間
06
保持スキル歌唱水泳

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