73番目のアイリッシュ・ゴールド「ヴィッキー・ランドリー」

NPC

VR1130年生まれ 女性

ヴィッキー・ランドリーはパルスプラントのファドルベルク出身の女性である。エスクケイル投声庁から、VR1150年に最年少でアイリッシュ・ゴールドになりきることを認められた。

来歴

ここでそもそもフロウタール世界でのアイリッシュ・ゴールドとは何なのか、というと、それは、初夏の新葉に現れる黄色と薄緑の縞模様が美しい、しかし生け垣や庭の境界線を超えてどこへでも侵入してくる、常緑の蔦植物のことを、我々の世界で呼び習わすのと同様に指し示している。

そこから転じて、彼の国では「アイリッシュ・ゴールド」という言葉に、もう一つの意味が与えられてもいる。それは一見して華やかな外貌を伴っていながら、秘密裏に情報を収集する国際的なスパイ、に対する隠喩である。

ただ、この「アイリッシュ・ゴールド」は、二重スパイや政治指導員を含む、一般的なスパイの定義と同じ意味合いを持つわけではない。むしろ逆で、反スパイ分子、と言って良い特殊な意味付けを、フロウタールの圏域内で広範に保持している。

少し逆説的すぎるので付言すると、具体的に彼らが担う役割は、順を追って以下のようなものになる。

……………………
まず、大前提として、アイリッシュ・ゴールドがスパイであることは、国際的な機関や内政に関わる者、それらを取り締まる者のみならず、フロウタール圏内の人民であれば誰でも知っている。

次に、予め認知されている範囲と同様に、各国の宮廷や要人の集まる会合、商業施設から民間の社交場にまで、アイリッシュ・ゴールドは頻繁に現れる。そして、彼(もしくは彼女自身)の存在は(国際的に公認されているとは言えスパイなのだから)、スパイが嗅ぎつけようとする秘密、が醸成されているような雰囲気を、その場の全ての人に告げ知らせる効果を持つ。

さらに、次の第三番目の効能が最も重要なのだが、もしもそこに実際にスパイの役割を与えられた諜報人が潜んでいる場合、「公認」されたスパイとしてスパイ活動そのものを熟知しているアイリッシュ・ゴールドの存在は、むしろそこで行われる可能性のある諜報活動に対し、抑止力として働くことになる(彼らの目を避けてそれでもスパイ行為を行おうとする場合、当然ながらかなりのリスクが伴うだろう)。

つまり、秘密が秘密として価値を持って取引される可能性を、初めから前提とした自身の姿を晒すことで、全て明け透けにし、無力化してしまうのである。これが、アイリッシュ・ゴールドとして総称される彼と彼女たちに与えられた、「反スパイ分子」としての本質的な意味である。

以上のような経緯を踏まえると、アイリッシュ・ゴールドという個人名=職に就くための必要条件が、初めからかなり限られてくることがお分かり頂けるだろう。エスクケイルにある投声庁はそれを以下のように規定している。

1 一目見て外交官=スパイと分かる際立った外貌(具体的にはブロンドと碧眼)

2 誰からも情報を引き出せる話術と率先して人付き合いを行う社交性

3 機密の共有に奉仕する品行方正な性格と、それらを秘密として取り扱わない倫理観

これらの応募条件を満たした上で、弁論や数学、体育を含むいくつかの実技試験を踏まえ、毎年数百倍から数千倍に及ぶ狭き門を通過した者のみが、晴れて年に一名か二名ずつ新しいアイリッシュ・ゴールドに任じられる、というわけなのだ。

……話を本稿で語られるべきヴィッキー・ランドリーに戻そう。彼女の両親は美容師だった。では何故、パルスプラントのファドルベルク近くの寒村で男女の髪型を整えているべき両親と同様に、ヴィッキーも美容師にならなかったかというと、それはスルーゲイズ以南で発生したVR1097年以来の奇音、それに伴った奇病の周辺地域への影響によっている。どうも近隣住人の話を総合すると、他の多くの業種と同じく、各地の住人がおうち時間を過ごすうち、両親の経営する美容室も、徐々に客足が減ってしまったらしい。

勿論、パルスプラントの住人たちの美に対する意識が枯渇してしまったわけではなかっただろうし、外出を一定程度制限されることで、家でできるエクササイズとか、アイメイクのヴァリエーションなどは広がったとも思われるが、対面で顧客にサービスをする店の経営は、少しずつ厳しくなっていった。そこで、ヴィッキーはある決心をする。

その決心とは当然、「アイリッシュ・ゴールド」になることである。よくよく考えてみると、選り優られたエリート、らしき印象を持たれることの多いアイリッシュ・ゴールドだが、投声庁の応募規定そのものは、特別な学歴や初めから与えられた名声、などを求めるものではない。

ヴィッキー・ランドリーは、美容師であった両親のもとに生まれた手前、人前に晒す外貌にはかなり自信があったし、店の常連と話す際に時折見せる伸びやかな笑顔は、パルスプラントの僻地にも都会のような彩りを与えてくれる、と評判だった。また、そうした都会に憧れながらも情報の遠い南部の田舎町で形作られた自意識と孤独な精神性も、「秘密」を内面のうちに留めておくのには好都合であったろう。

VR1149年、「あんた、カワイイし絶対受かるから早く応募しちゃいなよ!」という地元の友人からの激励にも推され、ヴィッキーはエスクケイルの投声庁に履歴書を提出する。

自宅の美容室で髪を茶髪から黄金に染め上げ、若干栗色がかった瞳の色も、道中エロイーズ性王国のスルナという街のニック・デラ・コルテというブランドの珍しい緑色の縁のメガネでごまかした。これらの装飾は、むしろ目立った外貌の求められるアイリッシュ・ゴールドにはふさわしい、と判断されたらしく、エスクケイルでのその後の面接や実技試験などはとんとん拍子で進んだ。尤も、それらの事実は、ヴィッキー・ランドリーが限りなく狭き門を通り抜ける資格としての際立った美貌と、即座に対面した男性を籠絡するだけの抗いがたい女性的な魅力を保持していたことをただ追認しているだけに過ぎないのだが。

とにかく、フロウタール南部特有の奔放さとまだあどけない印象を残した少女は、VR1150年の春、晴れて73番目のアイリッシュ・ゴールドとなった。ただ、そうは言っても彼女は現時点では見習いで、他の先輩たちと同様、正式なアイリッシュ・ゴールドと認められるには通過儀礼としてのある試験を受けなければならない。

その試験とは、彼女より以前に就任した72人、全てのアイリッシュ・ゴールドと出会うことである。……必然的にこの試験は、世界中を行脚する旅路と、その間に自身もアイリッシュ・ゴールドとして振る舞う初任の緊張を伴うことになる。

ある時はアルセムの宮廷、またある時はノルジッドの商工組合での会合を経てサールズに至るまで、ヴィッキー・ランドリーは今まさにアイリッシュ・ゴールドとしての役割を従順に果たし始めた所だ。だが、それらの選任試験としての旅路の終わりに、本当にちょうどぴったり72人のアイリッシュ・ゴールドが世界中に存在するのか、きちんと「73番目の」アイリッシュ・ゴールドとして就職できるのかは、誰にも分からない。

逆に言うと、既に彼女は一般の市民の目からは厳密に区別のつかない「アイリッシュ・ゴールド」の一人になりきっている、とも言える。なぜなら、フロウタールの市街の只中で、不意に誰かがその存在を認めることがあったとしても、彼女が「何番目に」選ばれた人物であるかを見定められる者などいないだろうから、である(勿論、彼女の同級生などは別として)。

日々の行動と能力

1 髪を一つにまとめる

2 毎日異なった髪飾りをつける

3 (相手の目を)思わしげにみつめ返す

4 外貌の優れない男性を即座に軽蔑する

5 アイリッシュ・ゴールドになりきる

6 アイリッシュ・ゴールドを探す

SPECIAL
5766557
闘争華美飽食享楽不寛勤勉渇望
231
空間時間
33
保持スキル洗髪警戒軽蔑

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